皆さんは今、志望校や学部を選ぶにあたって何を基準にしていますか? 「将来性がありそうだから」 「就職に強そうだから」 「最近よくニュースで聞く分野だから」もし、こうした理由だけで志望学部を決めているとしたら、少しだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。特に、昨今のAIブームに乗って急増している「データサイエンス系」や「情報系」の学部に飛びつこうとしている人は要注意です。

先日、スイス・ダボスで開催されている世界経済フォーラム年次総会2026で、米AIデータ企業「パランティア・テクノロジーズ」のアレックス・カープ CEOが「AIの影響で文系の管理・総合職が職を失い、理系の技術・技能職が職を得る」との見解を示し、話題になりました。
私たち編集部は、その重要な示唆を尊重しつつ、変化の激しいAI時代における「勝てる学部選び」について考えたいと思います。

AIの進化速度は「甘くない」です

まず、私たちが直面している現実を認識しましょう。それは「AIの進化スピードは、私たちの想像を遥かに超えている」ということです。

ここ数年、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、社会は劇的に変化しました。今まで人間にしかできないと思われていた「文章作成」「プログラミング」「画像生成」、さらには高度なデータ分析や推論まで、AIは一瞬でこなすようになりました。

この進化の速度を決して甘く見てはいけません。「甘く見る」とはどういうことか。それは、「今のAIができることはこの程度だから、人間にはまだこれだけの仕事が残るだろう」と高を括ることや、「大学で4年間学べば、AIを使いこなす側の人間になれるだろう」と安易に考えることです。

テクノロジーの世界では、1年で常識が覆ります。今、最先端だと言われている技術やスキルが、あなたが大学に入学し、卒業する4年後(あるいは大学院修了の6年後)にも価値を持ち続けている保証はどこにもありません。むしろ、今の「専門スキル」の多くは、AIによって自動化されている可能性の方が高いのです。

急増する「データサイエンス学部」の落とし穴

現在、多くの大学で「データサイエンス学部」や「AI学科」、「情報デザイン学科」といった新設学部が次々と誕生しています。文部科学省の支援もあり、まさに雨後の筍のような増え方です。受験生の皆さんの中にも、こうしたキラキラした名称の学部に魅力を感じている人は多いでしょう。「これからの時代はデータだ!」というキャッチコピーは、確かに魅力的です。

しかし、ここで冷静になって考えてほしいポイントがあります。

「大学ではデータサイエンス系学部の新設が増えているが、それは『今の考え方』であり、5年後にはもう古くなっているかもしれない」

これは大学教育の構造的な宿命でもあります。大学が新しい学部を設置するには、数年前から構想を練り、文部科学省に申請し、カリキュラムを固め、教員を集めるという長い準備期間が必要です。つまり、2026年や2027年に新設される学部のカリキュラムは、実は「2024年や2025年時点での社会のニーズや技術水準」をベースに作られていることが多いのです。

「Pythonでコードを書いて機械学習モデルを作る」「統計ソフトを使ってデータを可視化する」。こうした現在重宝されている実務的なスキルは、5年後にはAIが対話形式の指示だけで一瞬でやってくれる作業になっているかもしれません。いえ、実際にそうなり始めています。

もしあなたが、「データサイエンス学部に行けば、一生食いっぱぐれないスキルが手に入る」と考えているなら、それは危険な賭けです。あなたが学ぶべきは、すぐに陳腐化するツールの使い方ではなく、もっと本質的な「問いを立てる力」や「解決すべき課題を見つける力」なのです。

大学側ももちろん先を見据えてはいますが、ハード(学部や学科の箱)を作ってしまうと、中身(カリキュラム)を柔軟に変えるのは容易ではありません。新設学部というトレンドだけに飛びつくと、卒業する頃には「一昔前の流行りのスキルを持った人」になってしまうリスクがあることを知っておいてください。

「一番興味を持てる分野」を選ぶべき

では、これほど不確実な時代に、私たちはどうやって学部を選べばいいのでしょうか? その答えは非常にシンプルで、かつ総合型選抜の対策において最も重要な核となる部分です。

それは、「理系、文系に関係なく、自分が最も興味を持てる分野の学部を選ぶのが一番だ」ということです。

なぜ、AI時代に「個人の興味」が最強の武器になるのか。理由は大きく分けて3つあります。

① AIは「ツール」であり、全分野に浸透するから

これからの時代、「AI学部」に行かなくても、AIは全ての学問分野に入り込んできます。 文学部なら「AIを使った古文書解析や文学研究」、法学部なら「リーガルテックやAI倫理」、農学部なら「スマート農業」、経済学部なら「AIによる市場予測」。 どの分野に進んでも、必ずAIという道具を使うことになります。重要なのは「AIそのものを作ること」だけでなく、「自分の専門領域でAIをどう活用して新しい価値を生むか」です。 したがって、AIを学ぶために無理して興味のない理系学部に進む必要はありません。あなたが心から面白いと思える歴史や文学、芸術の分野でこそ、AI活用は爆発的な面白さを発揮するかもしれません。

② 「好き」という感情はAIには模倣できないから

AIは、膨大なデータから「正解らしきもの」を導き出すのは得意ですが、「これを知りたい!」「これを解決したい!」という情熱や好奇心を持つことはできません。 この「探究心」こそが、人間だけが持つ価値です。 総合型選抜で評価されるのも、まさにこの部分です。「なぜあなたはその研究をしたいのか?」「なぜその大学でなければならないのか?」という問いに対し、借り物の言葉ではなく、自分の内側から湧き出る興味で語れる受験生は強いです。 興味がある分野なら、たとえ技術が変化しても、新しいツールを学び直し、探究を続けることができます。しかし、ただ「儲かりそうだから」と選んだ分野では、技術が陳腐化した瞬間に学ぶ意欲も失われてしまうでしょう。

③ 独自性(オリジナリティ)が生まれるから

皆がこぞってデータサイエンス学部を目指す中で、あえて「哲学 × データサイエンス」や「教育学 × AI」、「スポーツ科学 × データ分析」といった道を選ぶこと。これがあなたの希少価値(レアリティ)になります。 「データ分析ができる人」はこれからごまんと出てきますが、「江戸時代の食文化に誰よりも詳しくて、その分析に最新のAIを使える人」は唯一無二です。 自分が夢中になれる分野を深掘りし、そこに後からテクノロジーを掛け合わせる。この順序の方が、結果として代替不可能な人材になれるのです。

トレンドではなく「自分軸」で選ぼう

総合型選抜の準備をしている皆さん。 志望理由書を書くとき、「社会のトレンド」に合わせて自分を偽っていませんか? 「今はAIが流行りだから、それっぽいことを書いておこう」と考えていませんか?

今のトレンドは5年後には古くなっています。 変化の激しい時代において、唯一変わらない指針となるのは、あなた自身の「これが好き」「これが知りたい」という知的好奇心だけです。

「データサイエンス学部に行くな」と言っているのではありません。もしあなたが、データの海に潜り、数字の羅列から法則を見つけ出すことに心からワクワクするなら、それは間違いなくあなたの進むべき道です。しかし、もし「なんとなく就職に有利そうだから」という理由だけで選ぼうとしているなら、一度立ち止まって、自分が本当に情熱を注げる対象を見つめ直してください。

理系でも文系でも、あるいはその境界にある分野でも構いません。 あなたが時間を忘れて没頭できること。 「もっと知りたい」と思えること。 それを選んでください。

その「没頭する力」さえあれば、どんなにAIが進化したとしても、あなたは新しい技術を味方につけ、その分野の第一線で輝き続けることができるはずです。

5年後の未来なんて、誰にもわかりません。 だからこそ、予測不可能な未来に賭けるのではなく、確かな「今の自分の情熱」に賭けてみてください。それが、総合型選抜を勝ち抜き、その先の人生を豊かにする最善の戦略なのです。